フランス日記
第1話 私の師匠ドラングル先生 その1
〜優しいヴーヴォワイエから恐怖のトゥトワイエへ〜
パリ国立高等音楽院の入試に合格してからというもの、
まるで夢を見ているような日々が続いていました。
そしていよいよ入学、ご対面です。
 ドラングル先生のレッスンはもちろん初めてでした。
それより、先生にとって私は初めての女子生徒だったのです。
先生はフランス紳士の伝統的マナーを尊重して、私に対し、
なんと敬語でレッスンを始めたのです。(女性には、必ず敬語
を使う古い伝統があります。)それはもう、戸惑いましたね。
「先生」に敬語を使われたのは、生まれて初めてでしたし、恐
縮してしまってリラックスできないんです。一方、まわりの
男子生徒からは、ひいきだと言われるわで、正直まいってし
まいました。
 しばらく後のレッスンの日に、思いきって先生に告白しま
した。敬語表現(vouvoyer=ヴーヴォワイエ)ではなく、対等
表現(tutoyer=トゥトワイエ)で話してほしいと…。
先生は驚いた様子で、「だったら男子生徒と同じようにする
よ!」とおっしゃって下さいました。
 でも、totoyerになった途端に、もうひとりのドラングル
先生が私の前に現れたのです。そして、じっ、地獄のような
日々が…。
続きは、次回へ。。
パリ音楽院でのレッスン風景
第1話 私の師匠ドラングル先生 その2
〜かわいい獅子は、崖へ突き落とされた?!〜
ドゥラングル先生に、男子生徒のようにレッスンされるように
なってからというもの、レッスンでは、そう簡単には、
Tres bien (とてもいいね)とは言われなくなったんです。
先生は、徹底的に基礎から叩きなおすつもりで、私に
ロングトーンとスケールをやるようにおっしゃいました。
ロングトーンは、ドゥラングル先生が得意の恐怖のディミニュエンド
(音が空気の中に溶け込んで、いつ消えたのかが分からない代物)
そして、スケールはもちろん全調、インターバルは8度まで、
そしてアルペジオ。
 それだけじゃなく、エチュードと曲ももちろんあり。
基礎は、やっていたつもりだったんですが、甘かったなと思い知らされる日々。
毎日練習しても追い付かず、焦るばかりの私をドゥラングル先生は、
厳しくレッスン。
「C'est pas proffetionel ! C'est amateur! (そんなのは、プロフェッショナル
じゃない!アマチュアだ!)」
というのが、先生の口癖。
耳にタコができるほど聞きました。
 あまりに厳しいので、思わず先生の前で涙がポロリ、、。
 あ〜あ、ほんとに私卒業できるのかな〜。
 誰か助けてくださいよ〜。

続きは次回へ。
第1話 私の師匠ドラングル先生 その3
〜何がだめなの?わかんないよ。〜
ドゥラングル先生のレッスンで、よく指摘されるのは、音のアタックについてである。
「今のアタックは違う!!舌の付け方が悪い!」とよく言われるのですが、
何で悪いのか、どうやったら良いのか自分ではさっぱり分からないし、
音を聴いても違いが、いまひとつ分からない。
でも、先生は敢えてどうしろとは言わない。自分の耳で見つけろといった感じ。
私は、焦った。今迄やっていたタンギングの仕方が違うなんて、考えられない。
何が違うの?どうしたらいいの?なんで私わかんないの?

 しばらくは、暗中模索の状態である。
レッスンの度に、ドゥラングル先生に指摘されながら、徐々に自分の耳が
まるでわけの分からなかった言語を理解しはじめるかのごとく、
変わって行くのを実感した。そうなんだ。音のアタックは、つまり言葉でいう
発音そのもの。だから、アタックがダメと言われるのは、私がちゃんとした
言語で発音していないのと同じなんだ。

 フランス語を理解できるようになるのと同じように、自分の耳で音の響きや
アタックの違い、わずかな舌の雑音など全てを聴き取れるようになり、
それを自分で再現する練習に集中することができた。

 中でもリュエフの「ソナタ」は、そのアタックの練習の成果が
顕著にあらわれる作品でもある。
 この曲では、先生に私のアタックの成果を少しだけ、認めてもらえたようだ!!
あ〜、ほんとに細かい先生だけど、頑張ってついていこう!!
第1話 私の師匠ドラングル先生 その4
 パリ音楽院の生徒達
〜え、、みんなそんなに若いの??〜

 パリ音楽院の生徒達は、サクソフォンに限らず、他の楽器でも、若い生徒達が
とっても目に付く。中でも13〜15歳で入学する子もいるほどだ。
パリ音楽院に入学するには、年齢制限がある。もちろん上限だ。下は0歳からOKなのだ。
さすが芸術の国フランス。才能さえあれば、何歳からでもOK!! 
子供の才能を最大限に引き伸ばす、エリート教育の原点だ。

 サクソフォン科は25歳までで(今は23歳!)、私はぎりぎりの25歳で入学したから、
もちろん他の生徒に比べたら、一番年上だ。しかも、15歳で入学したピアノの友達とは、
なんと10歳も年齢差があった、、。
 日本の大学でも、一浪や二浪はざらにいるとはいっても、10歳も年は離れていないだろう。
また、日本のように、1年違うだけで、敬語を使うという考えはなく、学生同士であれば
みんな対等表現(tutoyer)で話す。10歳離れていても、同じ学生で友達なんだ。

とにかく、敬語なんて気にしてちゃいけない、自分がいくら年が上でも、対等に話し、
話題に打ち解けなきゃいけない!!と固くなった頭をくだいてみた。
 ちなみに、他の楽器はというと、、。ピアノ、ヴァイオリン、フルートなどは、21歳まで
なので、授業の仲間は、年下の生徒ばっかり、、。
 でも、そのおかげで、様々な年代の友人ができて、今でも楽しく交流している。